初任給の見直しを検討しようと調べ始めたところ、調査ごとに金額が違っていて、自社の水準をどこと比べればよいのか判断しにくい。稟議や採用計画の場面で、こうした戸惑いを感じる採用担当者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
本記事では、5つの公表調査の大卒初任給を並べ、金額が違う理由と、20代〜30代前半の年齢階級別の賃金水準を整理します。初任給の引き上げを勧めるものではなく、判断材料を提供することを目的としています。なお、編集部が確認した範囲では、体育会出身者に限った賃金の公的統計は見当たらなかったため、学生全体を対象とするデータで整理しています。
結論:大卒初任給は調査によって23万円台〜26万円台と幅があり、対象企業・時点・定義をそろえて読む必要がある
公表されている大卒初任給は、調査によって23万円台から26万円台まで幅があります。これは金額の高低というより、調査が見ている企業の範囲、時点、金額の定義が異なることによる部分が大きいと考えられます。主な5調査を一覧にすると次のとおりです。
| 調査名 |
対象 |
時点 |
大卒初任給 |
定義のポイント |
| 厚生労働省 賃金構造基本統計調査(令和7年) |
10人以上の常用労働者を雇用する民営事業所 |
2025年6月分 |
262,300円 |
所定内給与額(時間外・深夜・休日出勤手当等を除く、税控除前) |
| 労務行政研究所 初任給調査(速報) |
東証プライム上場企業205社 |
2026年4月 |
265,708円 |
大学卒(一律設定)。時間外手当・通勤手当を除く諸手当込みの所定内賃金で、固定残業代は除いて集計 |
| 産労総合研究所 決定初任給調査 |
集計294社(約3,000社に郵送) |
2026年4月入社者 |
250,880円 |
大学卒(一律)。基本賃金に固定残業代を含む企業が6.5% |
| リクルートワークス研究所 大卒求人倍率調査 |
同調査の回答企業 |
2026年4月入社 |
23.7万円 |
平均初任給額(月額)。4年連続で増加 |
| マイナビ 企業新卒採用予定調査 |
有効回答1,579社 |
2027年卒 |
234,223円 |
学部卒・支給額。企業が予定として回答した値 |
同じ「大卒初任給」でも、実績か予定か、プライム上場企業中心か中小企業を含むかで、読み取れる意味は変わります。自社の金額を比べるときは、まず次の章で挙げる3つの違いを確認しておくと、数字の読み違いを減らせます。
調査ごとに初任給の金額が違う3つの理由
調査間の金額差は、主に「対象企業の規模・構成」「時点(実績か予定か、何年の入社者か)」「金額の定義」の3点から生じると考えられます。ただし、各調査の差のうちどれがどの程度を占めるのかは、公表資料から分解できません。
対象企業の違い(プライム上場中心か、中小を含むか)
労務行政研究所の調査は東証プライム上場企業が対象で、産労総合研究所の調査は規模の異なる企業を含みます。賃金構造基本統計調査は10人以上の民営事業所が対象です。後述するとおり、企業規模が大きいほど初任給が高い傾向が公表値に表れているため、対象に大企業が多い調査ほど平均が高く出る場合があります。
時点の違い(2025年6月分の実績/2026年4月の決定額/2027年卒の予定)
賃金構造基本統計調査は2025年6月分の賃金です。労務行政研究所、産労総合研究所、リクルートワークス研究所は2026年4月入社者の初任給を扱っています。一方、マイナビの調査は2027年卒の学生に対する初任給を企業が「予定」として回答した値です。実績と予定、年度の違うものを並べても、そのまま優劣は比べられません。
金額の定義の違い(所定内給与、諸手当込みか、固定残業代の扱い、一律設定か)
賃金構造基本統計調査は、時間外・深夜・休日出勤手当等を除いた所定内給与額です。労務行政研究所は、時間外手当・通勤手当を除く諸手当込みの所定内賃金で、固定残業代は除いて集計しています。産労総合研究所の調査では、基本賃金に固定残業代を含む企業が6.5%ありました。また、労務行政研究所と産労総合研究所は大学卒を「一律」で設定している企業の値を示しています。職種や地域などで初任給に差を設けている企業は、この「一律」の値とは別に扱われるため、自社がどちらに当たるかで比べ方が変わります。
公表データ①:賃金構造基本統計調査で見る新規学卒者の学歴別賃金
厚生労働省の「令和7年賃金構造基本統計調査の概況」(令和8年3月24日公表)では、新規学卒者(大学)の賃金は262.3千円で、前年から5.6%増加しました。令和6年の調査では248.3千円(対前年+4.6%)で、2年連続で上昇しています。
新規学卒者の学歴別賃金(男女計)は次のとおりです。
| 学歴 |
賃金(千円) |
対前年増減率 |
| 高校 |
207.3 |
+5.0% |
| 専門学校 |
230.7 |
+3.5% |
| 高専・短大 |
235.5 |
+5.2% |
| 大学 |
262.3 |
+5.6% |
| 大学院 |
299.0 |
+4.0% |
大学の男女別では、男性が264.9千円、女性が259.7千円です。この調査の「賃金」は令和7年6月分の所定内給与額で、10人以上の常用労働者を雇用する民営事業所が集計の対象です。学歴別に見ると、すべての学歴で前年を上回っています。
公表データ②:企業規模別に見た大卒初任給の差
産労総合研究所の2026年度調査では、大卒初任給は大企業265,632円、中堅企業252,502円、中小企業240,836円で、大企業と中小企業の差は24,796円でした。全体の平均は大学卒(一律)250,880円で、前年比+4.86%です。
| 企業規模(産労総研の区分) |
大卒初任給 |
前年差 |
| 大企業(1,000人以上) |
265,632円 |
+14,115円 |
| 中堅企業(300〜999人) |
252,502円 |
+13,194円 |
| 中小企業(299人以下) |
240,836円 |
+9,018円 |
前年差を見ると、大企業の+14,115円に対し、中小企業は+9,018円です。規模が大きい区分ほど前年からの増加額が大きい結果ですが、この調査から理由までは分かりません。前年差と規模間の差は、人事労務情報サイト「労務ドットコム」の紹介記事(2026年7月23日)に掲載された数値です。
なお、企業規模の区分は調査ごとに異なります。産労総合研究所は中堅企業を300〜999人としていますが、賃金構造基本統計調査では中企業を100〜999人、小企業を10〜99人と区分しています。規模別の数字を他の調査と並べる際は、この区分の違いに注意が必要です。
公表データ③:初任給を引き上げた企業の割合と理由
2026年度は、初任給を引き上げた企業が産労総合研究所の調査で77.9%と、同じ設問を設けた1997年度調査以降で最も高い割合でした。東証プライム上場企業を対象とした労務行政研究所の速報でも、全学歴を引き上げた企業が75.6%と高い水準が続いています。一方で、全学歴を据え置いた企業は21.5%で、前年度速報の14.2%から上昇しました。
| 調査 |
引き上げ・据え置きの割合 |
補足 |
| 産労総合研究所(2026年度) |
引き上げた企業77.9% |
1997年度調査以降で最高 |
| 労務行政研究所(2026年度速報) |
全学歴引き上げ75.6%(前年度速報83.2%) |
7.6ポイント低下 |
| 労務行政研究所(2026年度速報) |
全学歴据え置き21.5%(前年度速報14.2%) |
上昇 |
労務行政研究所の速報では、大学卒(一律設定)の同一企業での前年度比上昇率が5.3%、引き上げた場合の平均上昇額が16,754円でした。
産労総合研究所の調査で、引き上げの理由(複数回答)は「人材を確保するため」が71.2%、「在籍者のベースアップ(賃上げ)があったため」が44.1%でした。
マイナビの2027年卒調査では、初任給を引き上げる予定の企業が55.4%(前年54.1%)で、大卒初任給の平均は234,223円(前年比+8,437円)です。ただし、これは企業が予定として回答した値であり、実際に決定した金額とは異なる場合があります。今後の動きについては、公表データからは断定できません。
年齢階級別に見た大卒の賃金水準:20代〜30代前半の公表値
賃金構造基本統計調査では、大学卒(一般労働者)の所定内給与は、20〜24歳で263.9千円、25〜29歳で296.4千円、30〜34歳で340.3千円です。年齢階級が上の層ほど所定内給与が高く、20〜24歳と30〜34歳の層では76.4千円の開きがあります(いずれも断面データで、同じ人の昇給を追った数値ではありません)。
| 大学卒の年齢階級 |
賃金(千円・男女計) |
| 20〜24歳 |
263.9 |
| 25〜29歳 |
296.4 |
| 30〜34歳 |
340.3 |
| 35〜39歳 |
382.2 |
企業規模別の値も公表されています。次の表は学歴をすべて含む(学歴計)値であり、大学卒に限った数値ではない点に注意してください。
| 年齢階級(学歴計・千円) |
大企業 |
中企業 |
小企業 |
| 20〜24歳 |
258.4 |
237.6 |
226.3 |
| 25〜29歳 |
301.7 |
270.6 |
258.2 |
| 30〜34歳 |
344.6 |
299.4 |
286.5 |
大企業と小企業の差を計算すると、20〜24歳で32.1千円、25〜29歳で43.5千円、30〜34歳で58.1千円です。年齢階級が上の層ほど規模による差が大きい傾向が、数値から読み取れます。ただし、理由については公表データから断定できません。
この差は、入社後の処遇を設計する際の参考になる場合があります。20〜24歳の層で約3.2万円の規模による差が、30〜34歳の層では約5.8万円と大きく表れているため、初任給だけを他社と比べても、入社後の処遇の見え方までは分かりません。学生や内定者に条件を説明する際も、初任給の額に加えて、その後の昇給や評価の考え方を示せるかどうかを確認しておくとよいでしょう。
また、年齢階級別の値は同じ人を追跡した数値ではありません。その年に各年齢層にいる労働者の平均を集計した断面データであるため、「今年の新入社員が5年後にこの金額になる」と読むのは適切ではない点に留意が必要です。
採用予算に使うときの考え方:初任給だけでなく3〜5年の人件費で見る
初任給は、採用コストそのものではなく、入社後に続く人件費の出発点です。そのため、年齢階級別のデータを参考にしながら、数年分の見通しで検討する方法があります。一般的には、次のような手順が考えられます。
- 自社の初任給を、同じ定義(所定内給与か支給額か)の調査と比べる
- 規模や業種が近い調査・区分のデータを選ぶ
- 年齢階級別の賃金水準(断面データ)と自社の昇給制度を参考に、3〜5年分の所定内給与の見通しを置く
- 賞与、法定福利費、各種手当は、別途自社の条件で積み上げる
賞与や法定福利費は自社の制度や加入状況によって変わるため、ここでは具体的な数値を示しません。採用活動そのものにかかる費用については、新卒採用コストの業界別データで公開データの範囲を整理しています。
自社の初任給を公表値と比べるときの確認表
比較の前に、次の項目をそろえておくと、条件の違う数字を並べてしまうことを避けやすくなります。
| 確認項目 |
確認する理由 |
| 所定内給与か支給額か |
調査によって集計する範囲が異なり、そのまま比べると差が出るため |
| 固定残業代を含むか |
含む企業と除いて集計する調査があり、含めると金額が高く見えるため |
| 諸手当(住宅手当等)を含むか |
諸手当を含めるかどうかで金額が変わるため。各調査の定義欄で扱いを確認します |
| 一律設定か、職種・地域別か |
本記事の民間調査の一部は一律設定の企業の値を示しており、職種別の金額とは単純に比べられないため |
| 比較する調査の対象企業規模 |
規模が大きい区分ほど金額が高い傾向があり、比較対象を誤ると水準を見誤るため |
| 比較する調査の時点 |
実績か予定か、何年の入社者かによって、数値の意味が変わるため |
初任給以外に伝えられる情報:評価・賞与の仕組みを説明している例(公開インタビューから)
金額の比較だけでなく、入社後の評価や賞与の決まり方を具体的に説明している企業の例もあります。ツナカレメディア「人事の声」の公開インタビューから、2社の例を紹介します。
- 防犯防災設備工事の企業:利益の20%を決算賞与として、年次や役職ではなく、その期の活躍度で還元しているとしています(2026年1月8日公開)。
- 不動産の企業:評価は年功序列ではなく、成果と周囲への貢献で判断しており、20代で課長になった例もあるとしています(2026年1月29日公開)。
いずれも1社の公開事例であり、同じ仕組みが同じ結果につながることを示すものではありません。統計的な裏付けのある知見でもありません。ここで取り上げたのは、初任給の額に加えて、入社後の評価や賞与の考え方を説明する情報の出し方の一例としてです。体育会学生に限らず、学生全体への条件説明に共通する話として参考にしてください。
まとめ:初任給は「同じ定義・同じ時点」の数値で比べ、入社後の賃金の見通しとあわせて検討する
本記事の要点は次の3つです。
- 大卒初任給は、調査によって23万円台から26万円台まで幅があり、対象企業・時点・定義が異なります。
- 企業規模別の差は公表値に表れており、年齢階級が上の層ほど規模による賃金差が大きい傾向が見られます(断面データ)。
- 初任給は、同じ定義・同じ時点の数値で比べたうえで、年齢階級別の賃金水準などを参考に数年分の見通しとあわせて検討する方法があります。
自社の採用条件や、予算の考え方の整理についてご相談がある場合は、採用のご相談からお問い合わせください。なお、内定後の辞退については内定辞退率のデータ解説、入社後の定着については大卒3年以内離職率の業界別データで公開データを整理しています。
参考にした公開データ
(確認日:2026年10月17日)