「同業他社は新卒1人あたりどのくらい採用コストをかけているのか」——採用予算の稟議や経営会議で採用単価の妥当性を説明する場面では、この問いにぶつかることがあります。しかし実際に公開調査を探すと、業界別・業種別の採用コスト水準を示したデータにはなかなか行き着きません。本記事では、2026年9月時点で編集部が確認できた公開データの範囲を整理し、業界別データが見当たらない現状と、代わりに何を判断材料にできるかを解説します。

結論:新卒採用コストの「業界別」公表データは確認できず、判断材料になるのは全体平均と業界別の採用環境データ

2026年9月時点で編集部が公開調査を調べた範囲では、業種別に新卒採用コストを数値で示した調査は確認できませんでした。使えるのは、業種を問わない全体平均の採用コスト(就職白書2020の2019年度実績・93.6万円など)と、業種別に公表されている求人数・採用充足率・初任給といった「採用環境」のデータです。両者を組み合わせて自社の状況を相対的に位置づけるのが現実的な進め方です。

公表されている新卒採用コストのデータはどこまであるか

新卒・中途の採用コストを具体的な金額で示している公開データとして、リクルート就職みらい研究所の「就職白書2020」があります。

指標 対象年度 数値 出典
新卒採用1人あたりの平均採用コスト 2019年度実績 93.6万円 就職白書2020を引用したリクルートエージェント「採用コストの平均とは?」
新卒採用1人あたりの平均採用コスト 2018年度実績 71.5万円 同上
中途採用1人あたりの平均採用コスト 2019年度実績 103.3万円 同上

93.6万円は2019年度実績である点に注意してください。2026年現在の採用手法の変化(オンライン選考の普及など)を反映した最新値ではなく、参考値として扱う必要があります。

最新版の「就職白書2025」では、企業調査の概要として1,510社対象・回収率31.0%(調査期間2024年12月2日〜2025年1月10日)、2026年卒の採用予定数が平均31.9人(2025年卒実績30.3人)、採用予定充足企業37.2%(前年比+1.1pt)といった項目がリクルートのプレスリリースで公表されています。しかし編集部が確認した範囲では、採用コスト・採用単価の数値はこの中には見当たりませんでした。同じ調査シリーズでも年度によって公表指標の範囲が異なるようです。

業界別の採用コストデータが見当たらない背景(編集部の整理)

なぜ業界別・業種別のデータが見当たらないのか、編集部の整理として考えられる背景を挙げます。いずれも推測を含む整理です。

  • 採用コストの定義が企業ごとに異なると考えられます。 外部コストのみ計上する企業もあれば社員人件費まで含める企業もあり、比較対象がそろいにくい可能性があります。
  • 採用人数が分母になるため、少数採用の企業では単価が大きく振れると考えられます。 固定費の負担が単価を押し上げやすく、業種内のばらつきが大きくなりやすい可能性があります。
  • 調査ごとに業種区分の切り方が異なり、横断的な集計がしにくい可能性があります。 加えて、1,510社規模の調査でも業種×企業規模で分割すると各セルのサンプルが小さくなり、公表しにくい水準になっていると考えられます。

業界別に公表されているのは「コスト」ではなく「採用環境」のデータ

業種別のコストデータは見当たらない一方、業種別の「採用環境」データは複数の調査で公表されています。代表例がリクルートワークス研究所「大卒求人倍率調査(2027年卒)」で、2027年卒の大卒求人倍率は全体で1.62倍(2026年卒1.66倍)です。同調査は2026年1月23日〜3月2日に実施、従業員規模5人以上の民間企業8,200社を対象に3,933社から回答を得ています(インディードリクルートパートナーズのプレスリリース)。業種別の求人数は次の通りです(『日本の人事部』ニュース)。

業種 求人数(2027年卒) 前年比
建設業 12.8万人 +16.3%
製造業 26.2万人 ▲6.1%
流通業 26.4万人 ▲6.2%
金融業 1.0万人 +10.6%
サービス業 4.8万人 ▲0.8%

製造業は前年より1.7万人の減少(▲6.1%)で、求人数の実数では最大の業種でありながら前年からは縮小しています。

この表は「求人数」であって「業種別の採用単価」でも「業種別の求人倍率」でもありません。 求人数が増えている業種では母集団形成の競争が相対的に厳しくなり、採用コストが上振れしやすい可能性はありますが、これは求人数から導ける示唆にとどまり、コストの増減を示すデータではありません。求人数の増減とコストの増減を因果関係として断定することはできない点に注意してください。

同じ調査では従業員規模別の求人数も公表されています。5,000人以上のみ増加、それ以外は減少という構図です。

従業員規模 求人数(2027年卒) 前年比
300人未満 38.5万人 ▲3.5%
300〜999人 15.1万人 ▲1.6%
1,000〜4,999人 15.8万人 ▲1.4%
5,000人以上 5.5万人 +4.0%

この4区分の中では、300人未満企業の求人数が最も多く、5,000人以上企業の約7倍にあたります。中堅・中小規模の企業ほど、同じ学生層を数多くの企業と分け合う環境に置かれていると読むことができます。ただしこれは求人側のボリュームを示すデータであり、企業規模別の採用単価を示すものではありません。自社より規模の大きい企業の採用単価を基準にすると、母集団形成に必要な労力の前提が異なる可能性がある点は、予算を組むうえで意識しておきたいところです。

採用充足率と初任給から読む「コストがかさみやすい採用環境」

マイナビ「2026年卒 企業新卒内定状況調査」(調査時期2025年9月5日〜10月3日、有効回答1,810社)によると、採用充足率は全体69.7%で前年比0.3pt減・4年連続の減少です。インターンシップ実施企業の充足率は75.3%、未実施企業は60.6%でした(マイナビ career-research)。採用予定数を満たせなかった場合、追加の母集団形成施策や採用期間の延長が必要になり、結果として1人あたりコストが上振れする——という構図は想定されます。ただしこれは編集部の整理であり、充足率とコストの関係を数値で示した調査は今回確認できていません。実際の増減幅は、追加施策の内容や企業規模によって変わります。

初任給は、ワークス研究所の同調査で2026年4月入社の大卒平均が月額23.7万円(4年連続増加)となっています。またマイナビ「2027年卒 企業新卒採用予定調査」(調査期間2026年1月26日〜2月8日、有効回答1,579社)では、2027年卒の大卒初任給(学部卒・支給額)平均234,223円(前年比+8,437円)、引き上げ予定企業55.4%(前年54.1%)という結果です(マイナビ career-research)。ただし初任給は採用コストそのものではなく採用後に発生する人件費であり、「入口のコスト」とは別の上昇圧力として区別する必要があります。

「業界平均」ではなく自社基準で採用単価を置くための4ステップ

業界別データが存在しない以上、自社にとって意味のある採用単価の基準は自社の内部で組み立てる必要があります。

  1. コストの定義を先に決める——外部コストと内部コストのどこまでを含めるかを、集計前に社内で合意します。
  2. チャネル別に分けて集計する——求人媒体、人材紹介、自社サイト経由、リファラルなどチャネルごとに把握します。
  3. 分母を「内定者数」ではなく「入社者数」で揃える——内定辞退があると内定者数基準の単価は実態より低く出るためです。
  4. 他社比較ではなく自社の前年比・3年推移で見る——業界データがない以上、過去実績との比較が最も再現性のある評価軸になります。

コストの定義を決める参考として、外部・内部コストに含まれることが多い項目を挙げます(金額は企業により異なるため項目名のみ)。

区分 主な項目
外部コスト 求人媒体掲載費、人材紹介手数料、会社説明会の会場費、採用ツール制作費、適性検査費
内部コスト 採用担当者の人件費、面接に出る社員の工数、応募者対応の交通費、採用管理システムの利用料

コストの定義や具体的な採用KPIの立て方は、採用KPI設計の基本で詳しく解説しています。

予算策定の場でデータをどう示すか——3つのパターン

  1. 全体平均を基準線として使う——就職白書2020の93.6万円を使う場合は調査名・対象年度・出典を添え、2019年度実績をそのまま2026年の基準として扱わないようにします。
  2. 業界別は「採用環境データ」で代替して説明する——採用単価そのものは示せないため、求人数や求人倍率、充足率で自社業界の競争環境を補足します。
  3. 主指標は自社の過去実績の推移に置く——業界比較よりも、自社の採用コストの時系列推移を主指標に据えます。

注意したいのは、検索すると出てくる「新卒採用単価の相場は◯◯万円」という数字の扱いです。編集部が2026年9月時点で確認した範囲では、数十万円台から100万円超まで大きく異なる水準の数字が人材サービス各社の記事で示されていましたが、その多くは元になった調査名・対象年度・回答社数が明示されておらず、どの条件下の数値なのかを追跡できませんでした。数字の幅がこれだけ開くのは、前述のとおりコストの定義(内部コストを含めるか)や対象企業の構成が揃っていないためと考えられます。出所を特定できない「業界平均◯◯万円」は、稟議資料の根拠としては扱いにくい数字です。費用対効果の評価軸そのものは、体育会採用の費用対効果をどう考えるかでコストの多寡だけでなく定着・活躍まで含めた考え方を整理しています。

採用単価はチャネル構成で動く——公開インタビューから

業界平均を探すよりも自社のチャネル構成を見直すことが採用単価に効く場合があるという示唆として、旅行・IT業界の株式会社エアトリの公開インタビューがあります。同社の採用に関わる担当者は、若手社員からの提案をきっかけに自社サイト起点のオーガニック採用導線をゼロから構築し、採用単価を改善したと語っています(ツナカレメディア「人事の声」2026年6月8日公開)。

1社の公開事例であり、同じ手を打てば同じ結果になるというものではありません。ただし、採用単価は「業界水準がいくらか」よりも「自社がどのチャネルにどれだけ依存しているか」で動く部分がある、という見方の一例にはなります。業界別の比較データが手に入らない状況では、チャネル別に単価を分解して自社の構成比を把握するほうが、打ち手につながりやすい場合があります。求人媒体の選び方は、体育会学生向け求人媒体の選び方で整理しています。

まとめ:業界平均を探すより、定義と推移を自社で押さえる

2026年9月時点で編集部が確認した範囲では、新卒採用コストの業界別データは公開調査に見当たりませんでした。使えるのは、全体平均の採用コスト(就職白書2020・2019年度実績)と、業種別に公表されている求人数・充足率・初任給といった採用環境のデータです。業界平均を探し続けるよりも、自社のコスト定義を先に決め、チャネル別・年度推移で自社データを積み上げていく方が、予算策定や経営説明の場では実務的な根拠になります。

自社の採用コストの整理や予算策定についてご相談がある場合は、採用のご相談からお気軽にお問い合わせください。

参考にした公開データ

(確認日:2026年9月15日)