「自社の離職率は業界水準と比べて高いのか」——採用予算の稟議や定着施策の検討場面で、この問いに向き合うことがあります。厚生労働省は新規学卒就職者の離職状況を産業別に公表していますが、どの卒業年度の数字か、事業所規模の違いをどう扱うかによって読み方が変わります。本記事では最新の公表データを一覧で示し、自社水準の置き方と、検索で見かける数字が食い違う理由を整理します。

結論:大卒3年以内離職率は全体33.8%、産業別では12.4%〜55.4%に分かれる

令和4年3月卒業者の大卒3年以内離職率は全体(調査産業計)で33.8%、産業別では最も低い電気・ガス・熱供給・水道業の12.4%から最も高い宿泊業、飲食サービス業の55.4%まで、43.0ptの開きがあります。ただし自社水準を置く際は、産業別の数字だけでなく事業所規模別の数字と重ねた二軸で見る必要があります。

最新データの出所と対象年度を先に押さえる

最新の公表データは、厚生労働省が令和7年10月24日に発表した「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」別紙3です。全国集計であり、産業区分は就職先事業所の産業を指します。

離職率のデータを社内資料や記事で引用する際は、次の4項目を添えることをおすすめします。

  • 調査名——「新規学卒就職者の離職状況」など、どの調査に基づく数値か
  • 対象卒業年度——「令和4年3月卒業者」のように、いつ入社した人が対象か
  • 公表日——集計対象年度と公表日にはずれがあるため、いつ発表された数値か
  • 全国集計か地域集計か——後述のとおり、集計範囲によって数値が異なることがある

産業別の大卒3年以内離職率一覧(令和4年3月卒)

産業別に見ると、宿泊業や飲食サービス業、生活関連サービス業など対人サービス系の産業で離職率が高く、インフラ・製造系の産業で低い傾向があります。

産業 令和4年3月卒 令和3年3月卒 前年差
調査産業計 33.8% 34.9% ▲1.1pt
鉱業・採石業・砂利採取業 19.1% 12.8% +6.3pt
建設業 30.5% 30.7% ▲0.2pt
製造業 21.2% 20.6% +0.6pt
電気・ガス・熱供給・水道業 12.4% 12.5% ▲0.1pt
情報通信業 27.2% 29.3% ▲2.1pt
運輸業、郵便業 31.5% 31.2% +0.3pt
卸売業 30.0% 31.8% ▲1.8pt
小売業 40.4% 41.9% ▲1.5pt
金融業、保険業 25.0% 29.3% ▲4.3pt
不動産業、物品賃貸業 36.5% 38.3% ▲1.8pt
学術研究、専門・技術サービス業 33.9% 33.8% +0.1pt
宿泊業、飲食サービス業 55.4% 56.6% ▲1.2pt
生活関連サービス業、娯楽業 54.7% 53.7% +1.0pt
教育、学習支援業 44.2% 46.6% ▲2.4pt
医療、福祉 40.8% 41.5% ▲0.7pt
複合サービス事業 28.8% 30.7% ▲1.9pt
サービス業(他に分類されないもの) 38.8% 40.3% ▲1.5pt
その他 47.8% 49.3% ▲1.5pt

表から読み取れる傾向を整理します。

  • 最も高いのは宿泊業、飲食サービス業(55.4%)、次いで生活関連サービス業、娯楽業(54.7%)です。
  • 最も低いのは電気・ガス・熱供給・水道業(12.4%)、次いで鉱業・採石業・砂利採取業(19.1%)、製造業(21.2%)です。
  • 最高と最低の差は43.0ptあります。
  • なぜ産業によってここまで差が出るのかについて、この調査は理由を示していません。産業名だけで自社の状況を説明しきれるものではなく、要因の説明には別の材料が必要です。

前年(令和3年3月卒)からの変化の読み方

全体の離職率は令和3年3月卒の34.9%から令和4年3月卒は33.8%へ▲1.1ptの低下です。産業別では、鉱業・採石業・砂利採取業、生活関連サービス業、娯楽業、製造業、運輸業、郵便業、学術研究、専門・技術サービス業の5区分が上昇し、残りは低下または横ばいでした。

ただし、単年の増減をそのまま「上昇傾向にある」と読むのは慎重であるべきです。特に鉱業・採石業・砂利採取業の+6.3ptは変動幅が大きく見えますが、離職率は就職者数を分母とする割合であり、就職者数が少ない産業区分では少数の増減が率を大きく動かす可能性があります。本記事では産業別の就職者数までは確認していないため、この区分の変動幅がどの程度の人数に由来するかは判断できません。変動幅の大きさだけを業界の傾向と捉えず、複数年度の推移を確認したうえで判断することをおすすめします。

産業別の数字をそのまま自社の目標値にできない理由——事業所規模と重ねて見る

産業平均より自社の離職率が高くても、それだけで定着施策が劣っていると判断することはできません。事業所規模によって水準が大きく異なるため、規模構成の違いが比較結果に影響している可能性があるからです。

事業所規模別の大卒3年以内離職率(令和4年3月卒)は次の通りです。

事業所規模 大卒3年以内離職率
5人未満 57.5%
5〜29人 52.0%
30〜99人 41.9%
100〜499人 33.9%
500〜999人 31.5%
1,000人以上 27.0%
規模計 33.8%

規模が小さいほど離職率が高くなる傾向があり、5人未満と1,000人以上の差は30.5ptです。産業別の最高・最低の差(43.0pt)ほどではありませんが、産業間の差に匹敵する大きさがあります。

つまり、ある産業の平均離職率が高い背景には、その産業に小規模事業所が多く含まれているという構成の影響が混ざっている可能性があります。産業平均との比較だけでは、自社の数値が「産業の構造によるもの」なのか「自社固有の要因によるもの」なのかを切り分けられません。規模の近い区分の水準と並べて初めて、比較の前提がある程度そろいます。

産業別と規模別を掛け合わせた「産業×規模」の詳細な数値は公表されていないため、次の手順で確認することをおすすめします。

  1. 自社の産業区分の離職率を確認する
  2. 自社の事業所規模区分の離職率を確認する
  3. 両方の水準と自社の実績を比較し、どちらの軸で見ても高い(低い)のかを整理する
  4. 差が出ている場合、規模や産業の構造的な違いか自社固有の要因かを仮説として持つ

こうした位置づけを踏まえたKPI設計の考え方は、採用KPI設計の基本で解説しています。

学歴別に見た大卒の位置づけ

学歴別の就職後3年以内離職率(令和4年3月卒)を見ると、大卒は4区分の中で最も低い水準です。

学歴 3年以内離職率
中学卒 54.1%
高校卒 37.9%
短大卒 44.5%
大学卒 33.8%

大学卒の33.8%は、高校卒(37.9%)や短大卒(44.5%)と比べて低く、中学卒(54.1%)とはさらに大きな差があります。新卒採用で複数の学歴区分の人材を併用している企業は、区分ごとに水準が異なることを前提に、採用区分別に定着状況を分けて把握しておくと比較がしやすくなります。大卒の離職率が全体として低いからといって、他の学歴区分にも同じ定着施策がそのまま当てはまるとは限りません。なお、この数値は学歴区分ごとの全国平均であり、個々の人材の定着しやすさを示すものではありません。

検索で見かける「業界別離職率」の数字が食い違う理由

同じ産業を指しているはずなのに記事によって離職率の数字が異なるのは、対象卒業年度の異なる集計値が並記されずに引用されているためと考えられます。

編集部が2026年9月時点で検索結果を確認した範囲では、業界別離職率を扱う解説記事の中に、対象卒業年度が明記されていないものや、過去の卒業年度の集計値を参照しているとみられるものが混在していました。同じ産業でも参照する卒業年度が違えば数値は変わります。実際、上の一覧表でも令和4年3月卒と令和3年3月卒の間には産業によって最大6.3ptの差がありました。個々の記事がどの年度を参照しているかは特定できないため、本記事ではそれらの数値を引用しません。対象卒業年度が書かれていない「業界別離職率」の数字は、稟議資料の根拠としては扱いにくいといえます。

もう一点、集計範囲の違いにも注意が必要です。本記事が用いているのは厚生労働省職業安定局による全国集計ですが、地方労働局が公表する同種の資料には、その都道府県内に限定した産業別の数値が含まれている場合があります。全国値と地域値を混同すると、実態と異なる比較になります。

引用元の数字を使う前に、次の4点を確認することをおすすめします。

  • 対象卒業年度(いつ入社した人が対象か)
  • 公表日(いつ発表された集計か)
  • 全国集計か地域集計か
  • 産業区分の分け方(どの産業分類に基づくか)

同じく「業界別データの有無」を採用コストの観点から扱った新卒採用コストの業界別データは存在するかもあわせてご参照ください。

採用・定着施策の判断材料として使う3ステップ

離職率のデータを自社の採用・定着施策に落とし込む際は、次の3ステップで進めることをおすすめします。

  1. 自社の3年以内離職率を同じ定義で算出する——「就職後3年以内」「入社者ベース」という定義を厚労省調査とそろえます。定義がずれると比較の前提が崩れます。
  2. 産業別・規模別の二軸で位置を確認する——産業平均と規模平均の両方と照らし合わせます。
  3. 差の要因仮説を入社後のどの時点で起きているかに分解する——入社前の情報提供の段階か、配属直後か、1年目終了後かによって打ち手は変わります。

このステップの参考になる公開インタビューがあります。

  • IT業界の株式会社SPIN TECHNOLOGYは、入社前に厳しさも含めてすべて伝えギャップをなくすことで、離職率の低さにつなげていると述べています(ツナカレメディア「人事の声」2026年1月27日公開)。
  • 建設(施工管理)の株式会社エールは、毎月のヒアリングに加え3・6・12ヶ月の節目チェックや同期フォローなど複数の窓口で定着を支えています(同2025年12月24日公開)。同社が属する建設業の産業平均は30.5%で、調査産業計の33.8%をやや下回る水準です。
  • 営業支援の株式会社エンジンは、急拡大に伴う価値観のズレから集団離職を経験し、中途採用中心から新卒採用中心へ方針転換しました(同2025年11月21日公開)。

いずれも1社の公開事例であり、同じ施策が同じ結果をもたらすとは限りません。離職率の背景を「入社前」「配属後」「節目のタイミング」のどこで起きているかに分解する視点は参考になります。オンボーディングの考え方はオンボーディング設計の基本、体育会出身の若手に特有の早期離職の背景は体育会出身の若手はなぜ辞めるのかで整理しています。

まとめ:数字の比較より「同じ定義で並べる」ことが先

大卒3年以内離職率は全体33.8%、産業別では12.4%〜55.4%、事業所規模別では27.0%〜57.5%と、どちらの軸でも大きな幅があります。自社の水準を評価する際は、産業平均だけを見るのではなく規模別の水準とも重ねたうえで、対象卒業年度・公表日・集計範囲がそろった数字同士を比較することが先決です。

自社の離職率の読み解きや定着施策についてご相談がある場合は、採用のご相談からお気軽にお問い合わせください。

参考にした公開データ

(確認日:2026年9月17日)