チームで成果を出す仕事では、「全員で取り組んでいるのに、一人ひとりの貢献が見えにくい」という状況が起こりえます。心理学では、集団になると個人の努力が下がる現象が「社会的手抜き」として研究されてきました。この記事では、主要な研究を紹介し、体育会出身者の採用やチームづくりに活かす際の注意点を整理します。
結論:社会的手抜きは個人の怠慢というより、貢献が見えにくい条件との関連で研究されている。ただし体育会出身者の傾向を示す研究ではない
研究では、個人の出力が識別できる、または評価されると感じられる条件で、集団での努力の低下が小さくなることが報告されています。採用担当者にとっての示唆は、「チーム経験がある」ことだけで人を見ず、その人がチームの中で担った役割と貢献を具体的に確認する視点を持てる点です。一方、研究の多くは実験室で行われたもので、体育会出身の社会人を対象にしたものではありません。以下、順に整理します。
社会的手抜きとは:リンゲルマン効果との関係
社会的手抜きとは、集団で作業するときに、一人あたりの努力が単独で作業するときより下がる現象です。出発点とされるのがリンゲルマンの綱引きの知見で、人数が増えると一人あたりの力が下がる、というものです。リンゲルマンの原典の内容は、Kravitz & Martin(1986)の論文「Ringelmann rediscovered: The original article」で改めて取り上げられています。
Inghamら(1974)は、この知見を実験で再検討しました。要旨によると、研究1では1〜6人の集団で綱引きの成績を調べ、1人から2人、3人へ増えるときに成績は有意に下がりましたが、4人以上では追加の低下は有意ではなく、低下は直線的でなく曲線的だったとされています。研究2では、「協調の損失」と「動機づけの損失」を分けて検討しました。被験者を、実際には一人で引かせつつ他に1〜5人の仲間がいると信じさせる条件に置くことで、メンバー間の不協調を排除しています。この条件でも、仲間がいると信じた場合に個人の成績は下がり、その低下は知覚された人数が3人以上では横ばいになりました。つまり、集団での成績低下には、動きの噛み合わなさだけでなく、動機づけの面の要因も関わりうることが示唆されました。
| 概念 |
内容 |
| 協調の損失 |
動きのタイミングが合わないなど、メンバー間の調整の失敗による低下 |
| 動機づけの損失 |
集団の中で努力そのものが下がることによる低下 |
拍手と叫び声の実験(Latané et al., 1979)
この努力の低下を「社会的手抜き(social loafing)」と名づけたのが、Latané、Williams、Harkins(1979)の論文です。報告されている要旨では、拍手と叫び声という身体的に力を使う課題で、集団で行う場合は単独で行う場合より、個人の努力が大きく下がることが2つの実験で示されました。この低下は、集団での動きの噛み合わなさ(協調の失敗)による損失とは別に生じるものと位置づけられています。
ここから示唆されるのは、努力の低下が本人の意図的な「怠け」かどうかとは別に、「集団の中で作業している」という条件そのものと関連して生じうる、という点です。ただし、これは学生を対象にした短時間の実験であり、職場での長期の働き方にそのまま当てはまるとは限りません。
個人の貢献が識別できる条件で低下が小さかった:識別可能性と評価の研究
Williams、Harkins、Latané(1981)は、2つの叫び声(応援)実験で、個人の出力の識別可能性が社会的手抜きを左右するかを検討しました。報告されている要旨では、集団で行うと思っているときは単独より努力が下がる一方、集団でも自分の出力が識別されると信じた場合には、その低下が見られなくなりました。また、出力が常に識別できる場合は集団の大きさにかかわらず努力が高く保たれ、常に識別できない場合は低く保たれたとされています。
Harkins & Jackson(1985)は、ブレーンストーミング課題で、出力の識別可能性と、他者との比較を通じた評価の可能性を操作しました。要旨によると、出力が識別でき、かつ他のメンバーとの比較で個人の成績が評価できる場合に手抜きが小さくなり、比較できない場合は識別可能性だけでは効果がなかったと紹介されています。識別されるだけでなく、評価に結びつく見え方であることが関連していたという示唆です。
メタ分析が整理した条件:集合的努力モデル(Karau & Williams, 1993)
Karau & Williams(1993)は、多数の研究を統合したメタ分析を行い、社会的手抜きは中程度の大きさで、課題や対象者を超えて見られるとまとめています。あわせて提案された集合的努力モデルは、期待理論などを土台に、人が集団の中で努力するかどうかを「努力が成果につながると期待できるか」と「その成果を本人が価値あるものと感じるか」の組み合わせで説明します。期待の部分は、次のつながりとして整理できます。
| 見立て |
内容 |
| 1 |
自分の努力が、集団の成績に貢献する |
| 2 |
集団の成績が、集団としての成果につながる |
| 3 |
集団の成果が、個人にとっての成果につながる |
このつながりのどこかが弱い、あるいは成果そのものに価値を感じにくい場合に、努力が下がりやすいと考えるのがこのモデルの見方です。努力を「見られているか」だけでなく、「自分の努力が意味を持つと感じられるか」という観点から整理する枠組みです。理論的な整理であり、個別の職場で原因を断定するものではありません。
スポーツ領域の研究
Williams、Nida、Baca、Latané(1989)は、大学の競泳選手を対象に、個人成績とリレー成績について、識別可能性の影響を検討した研究です。本記事では結果の詳細には立ち入らず、スポーツの場で社会的手抜きが検討されてきたことの例として挙げるにとどめます。
Høigaard、Säfvenbom、Tønnessen(2006)は、ノルウェーのジュニアサッカー選手118人を対象に、チームの凝集性(まとまり)、規範、そして「他の選手が手を抜いていると感じる程度」の関連を調べました。要旨によると、凝集性と規範の指標は、いずれも知覚された手抜きと負の相関を示しました。ここで測られているのは選手が「手抜きを感じているか」という知覚であり、実際の手抜きの量を直接測ったものではありません。また、相関であり、まとまりが手抜きを減らすという因果を示したものではありません。
相関と因果:研究が言えていないこと
- 紹介した実験の多くは学生を対象にした短時間のもので、体育会出身の社会人の職場での行動を検証していません
- 識別可能性や評価が関連していたとしても、実際の職場で見える化すれば努力が上がると証明されたわけではありません
- スポーツ領域の研究(サッカー)は相関であり、凝集性が手抜きを防ぐという因果は示されていません
- 個人の採用可否を判断する根拠にはなりません
したがって、「体育会出身者は手を抜かない(あるいは抜く)」といった一般化は、研究からは支持できません。
スポーツと職場の前提条件の違い
競技では、試合や記録という結果が定期的に示され、個人の出番やプレーが周囲から見えやすい種目もあります。一方で職場では、成果が出るまでに時間がかかり、誰がどの部分を担ったかが見えにくい仕事もあり、評価の基準や頻度も部署によって異なる場合があります。また、本記事で紹介した実験は短時間の課題を扱うものが中心ですが、職場のチームは長期的に関係が続きます。この前提の違いがあるため、研究知見は「確認すべき観点を増やす材料」として使い、結論を急がないことが大切です。
採用・マネジメントへの示唆(仮説として)
以下はいずれも、研究が効果を実証したものではなく、仮説として扱ってください。
| 場面 |
考えられる使い方 |
| 面接 |
「チームの中で、あなたが担った役割と、その結果への貢献を具体的に教えてください」と尋ねる |
| 面接 |
「チームの成績に対して、自分の貢献が見えにくかった場面はありましたか。そのときどうしましたか」と尋ねる |
| 配属後 |
役割と担当範囲を明文化し、誰が何を担ったかを見える状態にする |
| 配属後 |
チーム評価に加えて、個人の貢献を確認する場(1on1など)を併用する |
| 配属後 |
一つのチームを必要以上に大きくせず、役割が見える規模で設計する |
実務の例として、株式会社jig.jpは、選考では想定外の問いへの向き合い方や、グループワークでの役割理解・周囲との関わり方を見ていると話しています(人事の声・2026-01-29)。また、タカマツハウス株式会社は、評価は年功序列でなく成果と周囲への貢献で判断していると話しています(人事の声・2026-01-29)。いずれも一社の実務の例であり、本記事の研究の裏付けではありません。
面接の評価基準を整える方法は面接官評価のばらつき防止チェックリストや体育会学生の面接評価シート テンプレート、チーム環境づくりは心理的安全性はスポーツチームに学べるか、動機づけの理論は自己決定理論で別の角度から扱っています。
まとめ:研究は「貢献の見え方を点検する材料」であり、属性判断の根拠ではない
社会的手抜きの研究は、集団での努力の低下が、個人の資質だけでなく、貢献の識別や評価のされ方といった条件との関連で検討されてきたことを示しています。一方で、体育会出身者の職場での行動を直接示すものではありません。属性で判断せず、一人ひとりの役割と貢献を具体で確認するための視点として使うことが、採用・育成の実務では適切です。
体育会出身者の採用や配属後のチームづくりについてご相談がある場合は、採用のご相談からお問い合わせください。
参考文献
- Ingham, A. G., Levinger, G., Graves, J., & Peckham, V. (1974). The Ringelmann effect: Studies of group size and group performance. Journal of Experimental Social Psychology, 10(4), 371–384. https://doi.org/10.1016/0022-1031(74)90033-X
- Kravitz, D. A., & Martin, B. (1986). Ringelmann rediscovered: The original article. Journal of Personality and Social Psychology, 50(5), 936–941. https://doi.org/10.1037/0022-3514.50.5.936
- Latané, B., Williams, K., & Harkins, S. (1979). Many hands make light the work: The causes and consequences of social loafing. Journal of Personality and Social Psychology, 37(6), 822–832. https://doi.org/10.1037/0022-3514.37.6.822
- Williams, K., Harkins, S. G., & Latané, B. (1981). Identifiability as a deterrent to social loafing: Two cheering experiments. Journal of Personality and Social Psychology, 40(2), 303–311. https://doi.org/10.1037/0022-3514.40.2.303
- Harkins, S. G., & Jackson, J. M. (1985). The role of evaluation in eliminating social loafing. Personality and Social Psychology Bulletin, 11(4), 457–465. https://doi.org/10.1177/0146167285114011
- Williams, K. D., Nida, S. A., Baca, L. D., & Latané, B. (1989). Social loafing and swimming: Effects of identifiability on individual and relay performance of intercollegiate swimmers. Basic and Applied Social Psychology, 10(1), 73–81. https://doi.org/10.1207/s15324834basp1001_7
- Karau, S. J., & Williams, K. D. (1993). Social loafing: A meta-analytic review and theoretical integration. Journal of Personality and Social Psychology, 65(4), 681–706. https://doi.org/10.1037/0022-3514.65.4.681
- Høigaard, R., Säfvenbom, R., & Tønnessen, F. E. (2006). The relationship between group cohesion, group norms, and perceived social loafing in soccer teams. Small Group Research, 37(3), 217–232. https://doi.org/10.1177/1046496406287311