「体育会出身者は努力を惜しまないから、成長し続けてくれるはずだ」——採用担当者からよく聞かれる期待です。この期待の背景には、スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエックが提唱した「成長マインドセット」という概念があります。ただし、体育会経験と成長マインドセットを安易に結びつけると、見極めを誤るリスクもあります。この記事では、ドゥエックの研究とスポーツ心理学の知見をもとに、体育会人材の「努力を続けられる力」をどう見極めるべきかを整理します。
結論:体育会経験は成長マインドセットの「土台」になり得るが、自動的に備わるわけではない
成長マインドセットとは、自分の能力は固定されたものではなく、努力や工夫によって伸ばせるという考え方を指します。体育会での継続的な練習経験は、この考え方を育む機会にはなり得ますが、上下関係への服従や結果への過度なこだわりが強い環境では、むしろ「失敗を隠す」「型を疑わない」という固定マインドセット的な行動が強化される場合もあります。採用担当者が確認すべきは「体育会出身かどうか」ではなく、「困難や失敗をどう解釈し、次の行動にどうつなげてきたか」という個人の語りです。
成長マインドセットとは何か——ドゥエックの研究
成長マインドセット(growth mindset)と固定マインドセット(fixed mindset)という概念の土台となったのは、ドゥエックとレゲットが1988年に学術誌Psychological Reviewに発表した論文です。この研究では、人が自分の能力を「固定された特性」と捉える場合と「努力で伸ばせる資質」と捉える場合とで、目標の立て方や失敗への反応が大きく異なることが示されました。固定マインドセットの傾向が強い人は、自分の能力の証明にこだわり、失敗を避ける行動を取りやすい一方、成長マインドセットの傾向が強い人は、失敗を学習の機会として捉え、挑戦的な課題に取り組みやすいとされています。
その後、イェーガーとドゥエックが2012年に発表した研究では、能力や特性は伸ばせるという信念を持つ生徒ほど、進学などの困難な移行期において高い成果を示し、対人関係のストレスに対する耐性も高まる傾向が報告されています。いずれも教育心理学の文脈での知見であり、職場にそのまま当てはまることを保証するものではない点には注意が必要です。
スポーツ選手を対象にした研究では何が示されているか
成長マインドセットの考え方は、スポーツ心理学の領域でも研究が進んでいます。2023年に国際学術誌International Journal of Sport and Exercise Psychologyに発表されたマクニールらの研究では、アスリートの成長マインドセットと固定マインドセットの組み合わせによって4つのタイプ(マインドセット・プロファイル)に分類したところ、成長マインドセットが高く固定マインドセットが低いタイプの選手ほど、競技レベルが高い傾向にあり、その関係は「困難への対処スキル(コーピングスキル)」の高さを介していたことが示唆されています。この結果は、成長マインドセットが単独で競技成績を左右するのではなく、困難への対処の仕方を通じて間接的に関連している可能性を示すものであり、単純な因果関係として理解すべきではありません。
「体育会出身者=努力家」という思い込みのリスク
体育会での経験は、成長マインドセットを育む機会になり得る一方で、次のような固定マインドセット的な行動パターンが同時に身についているケースもあります。
| 場面 | 成長マインドセット的な傾向 | 固定マインドセット的な傾向 |
|---|---|---|
| 試合や練習での失敗後 | 何が原因かを分析し、次の練習で試す | 「運が悪かった」「調子が悪かった」で片付ける |
| 新しい練習方法の提案 | 積極的に取り入れ、効果を検証する | 「これまでのやり方」に固執する |
| 後輩・チームメイトの成長 | 互いに学び合う関係として捉える | 自分の立場を脅かす存在として警戒する |
体育会出身であることは、こうした傾向のどちらにも転びうる「経験の土台」に過ぎません。採用面接では、この土台の上に何が積み上がっているかを確認する必要があります。
面接で成長マインドセットを見極める視点
面接では、次のような質問を通じて、候補者が失敗や停滞をどう解釈してきたかを具体的に確認することが有効です。
- 「うまくいかなかった時期に、何を変えましたか」——結果ではなく行動の変化を聞く
- 「後輩やチームメイトの成長をどう感じていましたか」——他者の成長への態度を確認する
- 「新しいやり方を試したときの反応は、周囲とどう違いましたか」——変化への向き合い方を確認する
これらの質問への答え方が抽象的な精神論にとどまるか、具体的な行動の変化として語られるかで、成長マインドセットの傾向をある程度見極めることができます。
協賛の現場から見える、マインドセットの多様性
当社は、企業と体育会・学生団体を協賛でつなぐプラットフォーム「ツナカレ」を運営しており、全国の体育会団体と日常的に接点を持っています。その中で感じるのは、同じ競技であっても、団体ごとに「失敗をどう扱うか」の文化が大きく異なるということです。データを用いて練習内容を検証し、失敗を次の練習に反映させる団体もあれば、結果が出ない選手に精神論で片付けてしまう団体もあります。採用担当者が体育会人材を評価する際は、所属していた競技名や実績だけでなく、その団体がどのような「振り返りの文化」を持っていたかも、成長マインドセットを見極めるヒントになります。
職場とスポーツの前提条件の違い
ドゥエックらの研究は教育現場を、マクニールらの研究は競技スポーツを対象としたものであり、いずれも企業の職場を直接対象にした研究ではありません。スポーツと職場では、成果を測る指標の明確さ、評価のタイミング、チームメンバーの入れ替わりの頻度などの前提条件が異なります。成長マインドセットに関する研究知見は、体育会人材の見極めにおける「示唆」として参考にしつつ、自社の評価制度や業務内容に照らして検証する姿勢が欠かせません。
参考文献
- Dweck, C. S., & Leggett, E. L. (1988). A Social-Cognitive Approach to Motivation and Personality. Psychological Review, 95(2), 256–273. https://doi.org/10.1037/0033-295X.95.2.256
- Yeager, D. S., & Dweck, C. S. (2012). Mindsets That Promote Resilience: When Students Believe That Personal Characteristics Can Be Developed. Educational Psychologist, 47(4), 302–314. https://doi.org/10.1080/00461520.2012.722805
- McNeil, D. G., Phillips, W. J., & Scoggin, S. A. (2023). Examining the importance of athletic mindset profiles for level of sport performance and coping. International Journal of Sport and Exercise Psychology, 22(4). https://doi.org/10.1080/1612197X.2023.2180073
まとめ:成長マインドセットは属性ではなく、面接で確認すべき「語り方」に表れる
成長マインドセットは、体育会出身であれば自動的に備わるものではなく、失敗や停滞をどう解釈し、次の行動にどうつなげてきたかという個人の認知の傾向です。ドゥエックの研究やスポーツ心理学の知見は、この傾向が困難への対処や粘り強さと関連する可能性を示していますが、職場での成果を保証するものではありません。採用担当者は「体育会出身だから努力家」という思い込みに頼らず、面接での具体的なエピソードを通じて、候補者の成長マインドセットの傾向を見極めることが重要です。
体育会人材の見極め方や面接設計についてご相談がある場合は、採用のご相談からお気軽にお問い合わせください。あわせて、グリット(やり抜く力)研究から考える体育会人材の見極め方、心理的安全性はスポーツチームに学べるか、体育会学生への面接質問例もご覧ください。