「介護職員が採用できない」「看護師の求人を出しても応募が集まらない」——医療・介護業界の採用担当者からは、こうした声が長く聞かれます。人材不足が続く中で、体力や対人対応力への期待から体育会出身者への関心を持つ事業者もありますが、医療・介護業界には国家資格が必要な職種と、そうでない職種が併存しており、評価のされ方は一般的な「体育会採用のメリット・デメリット」といった業界横断の議論だけでは語りきれません。この記事では、医療・介護業界に特化した採用実態を、公開データと医療人材紹介会社の採用担当者の声をもとに整理します。

結論:人手不足を背景に評価されやすい場面はあるが、資格職か否かで評価軸が大きく異なる

医療・介護業界は、介護分野を中心に人材確保が長期的な課題とされており、体力面・対人対応力への適応力を持つ人材への期待から、体育会出身者が採用の選択肢として語られる場面があります。ただし、看護師・理学療法士・作業療法士など国家資格が必要な職種では、資格取得と専門教育の修了が採用の前提になるため、体育会出身という属性だけで専門性を代替することはできません。一方、介護職員や医療事務、生活相談員など資格が必須ではない職種では、体力面や対人対応力が評価対象になりうる場面があります。属性ではなく、職種ごとに何を確認すべきかを分けて考えることが、実態に即した採用判断につながります。

医療・介護業界で人材確保が課題とされる背景

介護分野の人材確保の状況は、公益財団法人介護労働安定センターが厚生労働省の委託を受けて毎年実施している「介護労働実態調査」で確認できます。同センターが2026年7月29日に公表した令和7年度調査によれば、訪問介護員と介護職員を合わせた離職率は12.4%で前年度から横ばいとなった一方、従業員の過不足感について「大いに不足」「不足」「やや不足」の合計が65.8%となり、前年度より上昇しています(出典:公益財団法人介護労働安定センター「令和7年度 介護労働実態調査」結果資料)。離職率自体は過去と比べて低い水準を維持しているものの、人手不足感を持つ事業所の割合はむしろ増えているという点が、この業界の採用環境を特徴づけています。

看護職についても、人材確保が長く課題とされてきた職種です。業界メディアが厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」の職業別有効求人倍率(第21表-7)を整理した記事によれば、2021年から2023年にかけて、看護師・保健師・助産師の有効求人倍率は3年間とも2倍を超えて推移していたとされています(出典:メディカルサポネット「看護職の有効求人倍率の推移」、元データは厚生労働省「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」)。全職種平均の有効求人倍率が1倍台で推移する中、看護職の求人倍率がこれを上回る水準にあったことは、この職種で採用競争が続いてきたことを示す一つの材料といえます。

なお、厚生労働省が2025年10月に公表した「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」別紙3によれば、医療、福祉の大卒3年以内離職率は40.8%で、調査産業計(全産業平均)の33.8%を7.0pt上回っています(出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」)。人材の確保だけでなく、定着も業界共通の論点であることがうかがえます。業界別データの詳しい読み解き方は大卒3年以内離職率の業界別データでも整理しています。

採用担当者は体育会出身者の何を評価しているのか

医療人材紹介を手がけるMRT株式会社は、採用にあたって学歴よりも、経験から何を学んだかを自分の言葉で語れるかを重視していると述べています(出典:ツナカレメディア「人事の声」2026年1月14日公開)。これは体育会出身者に限定した発言ではありませんが、医療系の人材採用の現場でも、経歴そのものよりも経験の振り返り方や言語化力を見る姿勢があることを示しています。体育会出身者が持ちやすいとされる、目標に向けた取り組みを振り返り言葉にする経験は、こうした見極め方と重なる部分があると考えられます。

医療・介護業界に関する体育会採用固有の一次情報は、当メディアの取材記録の範囲では上記の1件にとどまります。以下は一般的に語られやすい傾向であり、個々の事業者・職種で必ず当てはまるものではない点にご留意ください。

  • 体力面への適応力:夜勤や身体介助を伴う業務では、体を動かし続けてきた経験が業務への適応の土台になり得ると一般的には言われます
  • チームでの役割理解:多職種が連携するチーム医療・チームケアの現場では、役割分担への理解や周囲との連携経験が活きる場面があるとされます
  • 不特定多数への対応経験:患者・利用者やその家族など、多様な相手と関わる場面での対応力が、部活動での対外的なコミュニケーション経験と重なるとされることがあります

資格が必要な職種と、そうでない職種で評価軸を分ける

医療・介護業界では、国家資格が必須の専門職と資格が必須ではない職種で、体育会経験を評価に織り込める範囲が大きく異なります。資格が必須の職種では体育会経験は資格・専門教育を確認したあとの補足的な判断材料にとどめ、資格が必須ではない職種では体力面・対人対応力を評価しつつ研修体制とセットで検討するのが基本になります。

職種群 主な職種 体育会経験が評価されうる場面 別途確認が必要な点
国家資格が必須の専門職 看護師、理学療法士、作業療法士、社会福祉士など 人柄・環境適応力・チームでの役割理解 資格の保有・専門教育の修了、臨床経験や専門知識は別途確認が必須
資格が必須ではない職種 介護職員(無資格可の求人)、医療事務、生活相談員(要件は自治体・法人により異なる)など 体力面への適応力、対人対応力、チームでの連携経験 利用者・患者対応の専門性は研修・OJTを通じた育成が前提になる

資格が必須の専門職では、体育会出身であることが評価に影響するとしても、それは資格取得後の人柄・適応力の判断材料にとどまります。資格を持たない求職者を「体育会出身だから」という理由で専門職に配置することはできず、この点は他業界の体育会採用以上に明確な線引きが必要です。一方、資格が必須ではない職種では、体力面・対人対応力が評価対象になりやすい一方、利用者・患者対応という専門性が求められるため、採用後の研修・オンボーディング体制とセットで検討することが重要になります。体育会採用全般のメリットと注意点は体育会人材を採用するメリットと注意点、体育会採用のデメリットとはでも整理していますので、あわせてご参照ください。

中途採用が中心になりやすい業界特性

医療・介護業界は、資格保有者を対象とした中途採用の比重が新卒採用より大きくなりやすい業界です。新卒でこの業界に触れる機会が少なかった体育会出身者であっても、資格取得後や関連職種での実務経験を積んだうえで、中途採用のルートから医療・介護業界を志望するケースは考えられます。中途採用における体育会出身者の見極め方や探し方は、体育会出身者を中途採用するにはで解説していますので、新卒採用の実績が少ない事業者にも参考になります。

医療・介護業界で体育会採用を検討する際の注意点

医療・介護業界で体育会出身者の採用を検討する場合、次の点を意識しておくと実態に即した判断がしやすくなります。

  • 職種によって「必須要件」が異なることを前提にする:資格が必要な職種と不要な職種を混同して評価基準を作らないことが、ミスマッチを避ける第一歩です。
  • 属性だけで採用・配属を決めない:体育会出身であることは人柄・適応力の判断材料の一つに過ぎず、業務内容と照らし合わせて判断する必要があります。
  • 定着支援を前提に採用計画を立てる:人手不足を理由に採用母集団を広げること自体は有効な手段ですが、入社後のフォロー体制が伴わなければ、早期離職という別の課題につながるおそれがあります。

まとめ:医療・介護業界の体育会採用は「資格の有無」で評価軸を分けて考える

医療・介護業界における体育会出身者の採用は、人手不足を背景に一定の関心が寄せられていますが、看護師・理学療法士などの資格必須職と、介護職員・医療事務などの資格不要職とでは、評価のされ方が大きく異なります。体育会出身であることは人柄・適応力の判断材料になり得ますが、専門性や資格要件を代替するものではありません。職種ごとに何を確認すべきかを整理したうえで、採用・配属の判断を行うことが、実態に即したミスマッチの少ない採用につながります。

医療・介護業界における体育会人材の採用・配属についてご相談がある場合は、採用のご相談からお気軽にお問い合わせください。