「体力があって体育会出身者は飲食業界の現場に向いているはずだ」という理由だけで採用・配属を決め、入社後にミスマッチが表面化する場合があります。飲食業界には、多店舗展開企業の店舗運営・店長候補として採用する正社員、調理技術を軸にキャリアを積む調理専門職、シフト制で現場を支えるアルバイト・パートという、性質の異なる働き方が併存しています。この記事では、飲食業界が置かれている採用環境の実態を公開データで確認したうえで、体育会出身者が評価されやすい場面と、業態・職種によって評価軸が異なる点を整理します。
結論:人手不足を背景に評価されやすい場面はあるが、業態・職種によって評価軸は大きく異なる
飲食業界は、新規学卒就職者の3年以内離職率が全産業の中でも高い水準にあり、非正社員を中心とした人手不足感も強い業界です。こうした背景のもと、体力面・対人対応力への適応力を持つ人材として、体育会出身者が採用の選択肢として語られる場面もあります。ただし、飲食業界には店舗運営を担う正社員(店長・SV候補)、調理技術を軸にする調理専門職、シフト制で現場に入るアルバイト・パートという性質の異なる働き方が併存しており、「体育会出身だから飲食業界向き」という単純化は避けるべきです。多店舗展開企業か個人店・小規模店かによっても、求められる役割は変わってきます。
飲食業界で人手不足・高い離職率が語られやすい背景
飲食業界の新規学卒就職者の定着状況は、厚生労働省が2025年10月に公表した「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」別紙3で確認できます。同資料によれば、「宿泊業,飲食サービス業」の就職後3年以内離職率は、大卒で55.4%(前年差1.2pt低下)、高卒で64.7%(前年差0.4pt低下)となっており、調査産業計(全産業平均)の大卒33.8%・高卒37.9%を、大卒で21.6pt、高卒で26.8pt上回っています(出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」、別紙3 産業別就職後3年以内離職率PDF)。なお、この統計区分は「宿泊業」と「飲食サービス業」をまとめた分類であり、飲食店単体の数値ではない点には留意が必要ですが、それでも全産業平均を大きく上回る水準にあることは、飲食業界が採用と定着の両面で課題を抱えていることを示す一つの材料といえます。業界別データの詳しい読み解き方は大卒3年以内離職率の業界別データでも整理しています。
人手不足感についても、飲食店は他業種と比べて高い水準にあります。帝国データバンクが2026年7月17日〜31日に実施した調査(有効回答企業数1万518社)によれば、非正社員の人手不足感を感じている企業の割合は、飲食店が57.7%(前年同月比4.1pt低下)で業種別トップとなり、全業種平均の28.8%を大きく上回りました(出典:帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年7月)」)。前年からは改善傾向にあるとはいえ、飲食店の非正社員不足感が全業種で突出して高い水準にある構図は続いています。飲食業界の店舗運営がシフト制のアルバイト・パートスタッフに支えられている部分が大きいことを踏まえると、この人手不足感の高さは業界の構造を反映していると考えられます。
採用担当者は体育会出身者の何を評価しているのか
飲食業界の採用担当者が体育会出身者に対して語った具体的な発言は、当メディアの取材記録の範囲では以下の1件にとどまります。飲食店を運営する株式会社オレヤルは、採用や配置において調理技術や接客経験そのものよりも「個性」を重視し、大きく権限移譲する方針をとっているとしています(出典:ツナカレメディア「人事の声」2026年1月6日公開)。これは体育会出身者に限定した発言ではありませんが、飲食業界の採用現場でも、経歴やスキルの完成度より、本人の個性や取り組み方を見る姿勢があることを示す一つの事例といえます。
飲食業界に関する体育会採用固有の一次情報は上記の1件にとどまるため、以下は一般的に語られやすい傾向として整理します。個々の企業・業態で必ず当てはまるものではない点にご留意ください。
- 体力面・立ち仕事への適応力:調理場やホールでの立ち仕事、繁忙期の稼働に、練習・大会等で体を動かし続けてきた経験が活きる場面があるとされます
- チームでの役割理解:限られた人数で店舗を回す飲食店の現場では、役割分担への理解や周囲との連携経験が評価対象になりうるとされます
- 上下関係・下積みへの適応:調理場での修業期間や、体育会組織での上下関係に慣れている点との親和性が語られることがあります
業態・職種によって評価軸を分ける
飲食業界は、多店舗展開企業の店舗運営を担う正社員、調理技術を軸にする調理専門職、シフト制で現場を支えるアルバイト・パートという、性質の異なる働き方が併存する業界です。体育会経験が評価されうる場面と、別途確認が必要な適性は、この3つの職種群で大きく異なります。
| 職種群 | 主な役割 | 体育会経験が評価されうる場面 | 別途確認が必要な点 |
|---|---|---|---|
| 店舗運営・店長候補(正社員) | 店長、スーパーバイザー、複数店舗の統括 | チームマネジメント経験、目標達成への継続力 | 多店舗運営のための数値管理・シフト管理力、労務知識 |
| 調理専門職 | 調理師、料理人 | 下積み期間・上下関係への適応、体力面への適応力 | 調理技術の習得意欲、食品衛生責任者等の資格取得状況 |
| アルバイト・パート(ホール・キッチン) | 接客、調理補助、レジ、清掃 | シフト制勤務への適応、体力面への適応力 | 個々の接客スキル、定着(短期離職の防止) |
多店舗展開企業の店長候補として採用する場合は、チームマネジメントや数値管理といった経営的な視点が求められる一方、調理専門職では技術の習得意欲や下積み期間への適応が重視されます。アルバイト・パートについては、シフト制勤務への適応力が評価されやすい一方、飲食業界は非正社員の入れ替わりが多い業界でもあるため、体育会出身であることが定着を保証するわけではありません。体育会採用全般のメリットと注意点は体育会人材を採用するメリットと注意点、体育会採用のデメリットとはでも整理していますので、あわせてご参照ください。
新卒採用と中途採用で異なる評価のされ方
飲食業界の新卒採用は、多店舗展開企業を中心に、店舗運営・店長候補としてポテンシャルを見る採用が中心になりやすい傾向があります。一方、調理専門職は専門学校卒業者や見習いからの育成ルートを持つ場合があり、新卒の一般採用ルートとは別の育成体系を設ける企業もあります。中途採用では一般的に、店長経験・調理技術・マネジメント経験の有無が評価の中心になりやすく、体育会出身であることの比重は新卒採用時より小さくなる可能性があります。20代・第二新卒の体育会出身者を中途採用する際に確認したい視点は、体育会出身者を中途採用するにはで解説しています。
飲食業界で体育会採用を検討する際の注意点
飲食業界で体育会出身者の採用を検討する場合、次の点を意識しておくと実態に即した判断がしやすくなります。
- 多店舗展開企業か個人店・小規模店かで求められる役割が異なることを前提にする:同じ「飲食業界」でも、組織としての採用・育成体制の有無が大きく異なります
- 属性だけで採用・配属を決めない:体育会出身であることは人柄・適応力の判断材料の一つに過ぎず、店舗運営・調理・接客のどの役割を担うのかを踏まえて判断する必要があります
- シフト・繁忙期対応の実態を正しく伝える:早朝・深夜・土日祝日の稼働が中心になる働き方であることを、採用段階で具体的に伝えておくことがミスマッチの防止につながります
- 定着支援を前提に採用計画を立てる:前述のとおり飲食業界は離職率・非正社員の人手不足感がともに高く、入社後のフォロー体制が伴わなければ、採用しても早期離職につながるおそれがあります
他業種との比較で見る飲食業界の位置づけ
非正社員を中心とした人手不足感の高さや、シフト制勤務への適応力が語られやすい点では、小売業界の体育会採用の実態と共通する部分があります。一方、小売業界の店舗現場が主に接客・在庫管理を中心とするのに対し、飲食業界は調理という専門技術の習得プロセスが独立した評価軸として存在する点で異なります。業界・職種ごとに求められる適性の違いを理解したうえで、自社の業態に合わせた見極めの観点を設計することが重要です。
まとめ:業態・職種ごとの評価軸を理解したうえで見極める
飲食業界は、新規学卒就職者の3年以内離職率と非正社員の人手不足感がともに全産業平均を大きく上回る業界であり、体力面・対人対応力への適応力を持つ人材への期待から、体育会出身者が採用の選択肢として語られる場面があります。ただし、飲食業界には店舗運営を担う正社員、調理専門職、アルバイト・パートという性質の異なる働き方が併存しており、「体育会出身だから飲食業界向き」という単純化は避けるべきです。多店舗展開企業か個人店かという業態の違いも踏まえたうえで、職種ごとに求められる適性と本人の志向が一致しているかを確認する姿勢が求められます。
飲食業界における体育会人材の採用・配属についてご相談がある場合は、採用のご相談からお気軽にお問い合わせください。