「挫折を経験した人材は多少の困難があっても打たれ強い」という考え方で、挫折経験の有無を採用の判断材料にしている企業もあるのではないでしょうか。心理学には逆境からの回復力を扱う「レジリエンス研究」があり、スポーツ心理学でもアスリートの挫折体験の研究が積み重ねられてきました。この記事では両者を確認したうえで、単純化のリスクと採用実務での参考範囲を整理します。

結論:レジリエンス研究は挫折経験の意味づけ方が重要であることを示すが、「経験があれば打たれ強い」という単純な図式は成り立たない

レジリエンス研究では、逆境をどう乗り越えるかは個人差が大きく、同じ挫折を経験しても意味を見いだして成長につなげる人もいれば、長く苦しさを抱え続ける人もいることが報告されています。トップアスリートを対象にした研究では、逆境を経験した後に「意味を探す」「周囲に助けを求める」プロセスを経て成長につながった事例が報告されていますが、これは挫折経験そのものの効果というより、その後の向き合い方に関する知見です。採用面接では「挫折経験の有無」ではなく、「挫折後にどう考え方や行動を変えたか」を確認することが、研究の知見に沿った見極め方になります。

レジリエンスとは何か——測定と研究の広がり

レジリエンス(resilience)は、逆境やストレスから立ち直る力を指す心理学の概念です。臨床心理学で広く使われる尺度に、コナーとデビッドソンが2003年に学術誌Depression and Anxietyに発表した「コナー・デビッドソン・レジリエンス尺度(CD-RISC)」があります。25項目からなる自己報告式の測定法で、ストレスへの対処力や自己効力感、変化への適応力といった要素からレジリエンスを捉えます。重要なのは、固定的な性格特性としてではなく、環境との相互作用の中で変化しうる力として扱っている点です。

逆境は本当に人を成長させるのか——ボナノの研究

「逆境を経験すれば人は強くなる」という考え方に一石を投じたのが、コロンビア大学のジョージ・ボナノ教授が2004年に学術誌American Psychologistに発表した論文です。ボナノは、喪失やトラウマ的な出来事を経験した人々の反応を追跡した複数の研究を整理し、深刻な逆境を経験した人の反応は一様ではなく、大きな苦痛を抱え続ける人、比較的早期に安定を取り戻す人、目立った不調を示さない人まで複数のパターンに分かれることを報告しました。「逆境を経験した人は皆、同じように強くなる」という単純な図式は成り立たないという示唆です。

アスリートの逆境経験に関する研究

スポーツ心理学でも、トップアスリートの逆境体験と成長の関係を扱った研究があります。フレッチャーとサーカーが2012年に学術誌Psychology of Sport and Exerciseに発表した研究では、12名のオリンピックチャンピオンへのインタビューから、ポジティブな性格傾向・モチベーション・自信・集中力・周囲からの支援認識が、逆境の影響を和らげる方向に働いていたことが報告されています。また、ハウエルズとフレッチャーが2015年に同誌に発表した研究では、オリンピック競泳選手8名の自伝を分析し、選手が当初は困難を否認し、平静を装う対処を取っていたものの、それが機能しなくなる中で次第に「経験の意味を探す」「周囲に助けを求める」向き合い方に転じたことで成長につながったことが報告されています。心理学でいう「心的外傷後成長(posttraumatic growth)」を支持する結果です。

「挫折経験者は打たれ強い」という単純化のリスク

ここまでの研究を踏まえると、「挫折経験の有無」だけで打たれ強さを判断することには、次のリスクがあります。

  • ボナノの研究が示すとおり、同じような逆境を経験しても反応は一様ではなく、経験の有無だけで打たれ強さを推測することはできない
  • アスリート研究の多くはオリンピックチャンピオンなど高い成果を残した人物が対象で、逆境を乗り越えられず競技を離れた人は分析に含まれていない(生存者バイアス)
  • これらは競技という特定の文脈での知見であり、職場での挫折にそのまま当てはまるとは限らない

この前提だけで判断すると、向き合えていない候補者を見誤ったり、大きな挫折を語らない候補者を過小評価したりするおそれがあります。

採用面接でどう活かすか——聞くべきは「経験の有無」より「向き合い方」

面接では次の観点で確認すると、挫折経験の有無よりも精度の高い見極めにつながります。

確認したい要素 質問の切り口 見るべきポイント
向き合い方 思うようにいかなかった直後、何を考え行動したか 否認・回避で終わらず意味づけ直しをしていたか
相談行動 つらい時期に誰かに相談したか 助けを求められる姿勢があるか
変化の具体性 その経験で考え方・行動のどこが変わったか 抽象論でなく具体的な行動変化を語れるか

協賛の現場から見える、挫折経験の語られ方

当社は、企業と体育会・学生団体を協賛でつなぐプラットフォーム「ツナカレ」を運営しており、体育会学生・OB/OGの就職活動相談を受ける機会があります。当社の実感として、レギュラーを外れるなどの挫折経験を語る学生の中でも、「なぜそうなったかを自分なりに分析していた」学生と、「悔しかった」という感情面の記述にとどまる学生とでは、その後の話の深まり方に違いが見られる傾向があります。統計的な裏付けのある知見ではなく当社の実感ベースの見解ですが、参考情報として共有します。

参考文献

まとめ:見るべきは挫折経験の有無ではなく、意味づけ直しと行動変容のプロセス

レジリエンス研究とスポーツ心理学の逆境・成長研究は、逆境を経験した後の意味づけ方や相談行動が成長につながる重要な要素であることを示しています。しかし「挫折を経験した人は誰でも打たれ強くなる」ということではなく、反応には大きな個人差があることも同時に示されています。採用面接では挫折経験の大きさや有無そのものではなく、その後どう向き合い行動を変えてきたかを具体的に確認する姿勢が、精度の高い見極めにつながります。

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