スポーツのバーンアウト研究とは|燃え尽きの3要素と採用・マネジメントへの示唆

公開
読了
約8分

採用の場面では、体育会出身者に「やり抜く力」や「苦しい練習に耐えてきた経験」を期待する見方があります。一方で、競技に打ち込んだ人の意欲の低下は、スポーツ心理学や社会学で「バーンアウト(燃え尽き)」として研究されてきました。この記事では、実在を確認できた主要な研究を紹介し、採用や入社後のマネジメントに活かす際の注意点を整理します。

結論:バーンアウト研究は「意欲の低下を個人の弱さと決めつけない」視点を与えるが、体育会出身者の傾向を示すものではない

バーンアウト研究が示しているのは、競技者の燃え尽きが「疲弊」「関心・価値づけの低下」「達成感の低下」といった複数の側面で捉えられること、そして個人の資質だけでなく、環境や関わり方との関連が検討されてきたことです。採用担当者にとっての実務的な意味は、「やり抜く力があるはず」という期待だけで人を見ず、意欲の変化を環境との関係で確認する視点を持てることにあります。一方、研究の対象は競技者であり、体育会出身の社会人の職場での状態を直接検証したものではありません。以下、順に整理します。

バーンアウト研究の出発点:ストレスへの反応としてのモデル(Smith, 1986)

スポーツ領域の初期の代表的な理論が、Smithが1986年に『Journal of Sport Psychology』で発表した認知-感情モデルです。このモデルでは、競技者が置かれた状況の要求(高い要求、練習負荷、周囲の期待など)を本人がどう評価するかに注目し、要求が自分の資源を上回ると捉えたときに心身の反応や行動の変化が生じる、という段階的な流れが示されています。バーンアウトを「慢性的なストレスへの反応」と位置づけた点が特徴です。

この見方は、意欲の低下を「気持ちの問題」と片づけず、要求と資源のバランスという構造で眺めるきっかけになります。ただし、これはあくまで理論モデルであり、職場の個別事例にそのまま当てはめて原因を断定するものではありません。

無料資料

競技別特性早見表

競技別の志向性・行動特性を採用・配属の視点で整理した早見表です

資料をダウンロード

「ストレス以上のもの」としての捉え方(Raedeke, 1997)

Raedekeは1997年に『Journal of Sport and Exercise Psychology』で、バーンアウトを単なるストレスとして扱うのではなく、「競技を続けたいという気持ち(コミットメント)」の観点から検討しました。この論文で示された考え方では、続ける理由が「やりたいから」にある状態と、「やめられないから・続けなければならないから」にある状態を区別します。後者のように、魅力ではなく拘束感によって続けている場合に、燃え尽きが生じやすい可能性が論じられています。

実務への示唆として考えられるのは、「長く続けてきた」という事実だけでは、本人の意欲の質までは分からないという点です。同じ「継続」でも、動機の質は人によって異なる可能性があります。面接や入社後の面談で、続けてきた理由を本人の言葉で聞くことは、この違いを知る手がかりの一つになります。

社会的な構造に目を向ける視点(Coakley, 1992)

社会学者のCoakleyは1992年に『Sociology of Sport Journal』で、青少年アスリートのバーンアウトを「個人の失敗」ではなく「社会的な問題」として捉える論文を発表しました。競技の組織のされ方(練習や大会の仕組み、周囲からの管理や統制など)が、競技者の生活や自己のあり方に影響しうるという見方です。

この視点は、職場でも「本人の意志の弱さ」とだけ解釈せず、役割・評価・仕事の進め方といった環境側の要因を点検する発想につながります。ただし、競技組織を対象とした議論であり、企業組織にそのまま当てはまるとは限りません。

3つの側面で測る:ABQ(Raedeke & Smith, 2001)

競技者のバーンアウト研究で広く用いられてきた尺度が、RaedekeとSmithが2001年に『Journal of Sport and Exercise Psychology』で発表した「Athlete Burnout Questionnaire(ABQ)」です。この尺度は、バーンアウトを次の3つの側面から捉えます。

側面 内容
心身の消耗感 身体的・感情的に疲れ切っている感覚
競技の価値づけの低下 競技に対して関心を失う、冷めた見方をする
達成感の低下 取り組んでも成果を感じられない感覚

この3つは、職業領域のバーンアウト研究(Maslach, Schaufeli & Leiter, 2001)が挙げる「消耗」「シニシズム(冷めた態度)」「効力感の低下」を参考に、競技者向けに整理された構造とされています。意欲低下を「疲れているだけ」と見るのではなく、関心や達成感の側面も含めて確認する際の整理枠として参考になります。なお、これは研究のための尺度であり、採用や人事評価の場で個人を診断する道具として使うものではありません。

要因の全体像:統合モデル(Gustafsson, Kenttä & Hassmén, 2011)

Gustafssonらは2011年に『International Review of Sport and Exercise Psychology』で、それまでの知見を整理した統合モデルを提示しています。この論文では、バーンアウトに関わる先行要因、初期のサイン、結果、そして性格・コーピング(対処)・環境に関わる要因が包括的に整理されています。研究が単一の原因ではなく、複数の要因の組み合わせとしてこの現象を捉えていることが分かります。

相関と因果:研究が言えていないこと

ここまでの研究には、次の限界があります。

  • 対象は競技者(多くは学生・青少年・エリート選手)であり、入社後の体育会出身社員の状態を直接検証していません
  • 「関連が報告されている」要因が、燃え尽きの原因であると証明されたとは限りません
  • モデルや尺度は、個人を診断したり、採用の合否を判断したりするために作られたものではありません

したがって、「体育会出身者は燃え尽きやすい(あるいは、乗り越える力がある)」といった一般化は、研究からは支持できません。

スポーツと職場の前提条件の違い

競技では、勝敗や記録という結果が定期的に示され、チームの目標も比較的共有されやすい環境が一般的です。一方で職場では、成果が見えるまでに時間がかかり、評価の基準や頻度、目標の明確さも部署や役割によって異なります。この前提の違いにより、競技での燃え尽きの要因が、職場でも同じように働くとは限りません。研究知見は「確認すべき観点を増やす材料」として使い、結論を急がない姿勢が重要です。

採用・マネジメントへの示唆(仮説として)

以上を踏まえ、応用するなら次のような使い方が考えられます。いずれも研究が効果を実証したものではなく、仮説として扱ってください。

  • 面接では、競技を続けた理由(「やりたかった」のか「続けるしかなかった」のか)を、本人の言葉で聞いてみる
  • 入社後に意欲の変化が見えたとき、性格や根性の問題と決めつける前に、仕事量・役割・評価・周囲との関係を点検する
  • 面談では「疲れていないか」だけでなく、仕事への関心や達成感についても尋ねる
  • 競技での継続経験を、職場でも同じ意欲が続く根拠として過度に期待しない

入社後の定着やオンボーディング設計は、体育会出身の若手はなぜ辞めるのかやオンボーディング設計の基本で別の角度から扱っています。また、競技移行期の心理的負荷についてはアスリートのキャリアトランジション研究、動機づけの理論は自己決定理論も参考になります。

意欲の源泉を「自律性・有能感・関係性」で捉える考え方は、自己決定理論と内発的動機づけの研究から考える体育会人材のマネジメントで研究の限界とあわせて整理しています。

まとめ:研究は「見方を増やす材料」であり、属性判断の根拠ではない

バーンアウト研究は、意欲の低下を複数の側面と環境との関係で捉える枠組みを提供してきました。一方で、体育会出身者の職場での状態を直接示すものではありません。属性による判断ではなく、個々の状況を確認するための視点として活用することが、採用・育成の実務では適切です。

体育会出身者の採用や入社後の関わり方についてご相談がある場合は、採用のご相談からお問い合わせください。

参考文献

採用のご相談

協賛の現場で見えた体育会人材の傾向を踏まえてご相談いただけます

無料で相談する

体育会・学生団体との連携 累計300超

無料資料競技別特性早見表

資料をダウンロード

FAQ

よくある質問

Q1
スポーツ領域のバーンアウト(燃え尽き)とは何ですか。
スポーツ心理学では、競技に関する心身の消耗感(疲弊)、競技への関心や価値づけの低下、達成感の低下という3つの側面から捉える枠組みが広く使われています(Raedeke & Smith, 2001)。ただし、単なる疲れや一時的な不調とは区別して扱われます。
Q2
体育会出身者はバーンアウトを経験しやすいということですか。
そうは言えません。本記事で紹介する研究は競技者を対象にした心理学・社会学の研究であり、体育会出身者が入社後に燃え尽きやすいことを示したものではありません。属性で判断せず、個々の状況を確認することが前提になります。
Q3
採用担当者はこの研究をどう活用できますか。
「意欲の低下を本人の性格や根性の問題とだけ捉えない」という視点の参考になります。ただし、スポーツと職場では評価や関係性の前提が異なるため、研究知見は仮説として扱い、面談などで個別に確認する位置づけが適切です。

NEXT — UP NEXT

次に読む

RELATED — KEEP READING

関連記事

スポーツ×組織の科学

自己効力感理論とは|バンデューラの研究から考える体育会人材の見極め方

スポーツ×組織の科学

グリット(やり抜く力)研究から考える体育会人材の見極め方

スポーツ×組織の科学

アスリートのキャリアトランジション研究とは|引退・移行期の知見と採用後の定着支援への示唆

スポーツ×組織の科学

自己決定理論とは|内発的動機づけの研究から考える体育会人材のマネジメント活用

スポーツ×組織の科学

挫折経験は打たれ強さを生むのか|レジリエンス研究から考える採用への活かし方

スポーツ×組織の科学

目標設定理論とは|ロック&レイサムの研究から考える体育会人材のマネジメント活用

「スポーツ×組織の科学」の記事をすべて見る 記事一覧へ