「同期が次々に引退していく。自分は何歳まで競技を続けて、何歳までに転職すれば間に合うのだろう」。実業団で競技を続ける20代の方のなかには、こうした問いを抱えたまま、結論を出せずにいる方がいるかもしれません。
結論として、「何歳までに転職しなければ間に合わない」と一律に言える線は、公的な資料からは確認できませんでした。そのため、この記事では年齢の数字を探すより先に、①契約と処遇、②競技を続ける期限、③競技経験の言語化の3点を確認する進め方を紹介します。あわせて、公的データから年齢について分かることと分からないことも整理します。転職をすすめる記事ではなく、判断の材料を並べることを目的にしています。
結論:「何歳まで」という線は確認できない。年齢より先に3つを確認する
年齢の目安を決める前に、次の3つを確認しておくと、迷いが整理しやすくなります。
| 確認すること |
具体的に見る点 |
| ①契約と処遇 |
雇用の形(正社員・契約社員など)、競技をやめた後の処遇、退職の手続き |
| ②競技を続ける期限 |
「いつまでに続けるか決めるか」を日付で決めているか |
| ③競技経験の言語化 |
職務経歴書に、競技以外の仕事の経験と競技で身につけたことを書けるか |
なお、体育会や実業団の選手に限った転職年齢の統計は確認できませんでした。以下、順に根拠を見ていきます。
年齢制限は原則禁止|ただし例外事由がある
募集・採用での年齢制限は、法令で原則として禁止されています。結論として、法令上は年齢を理由にした制限が原則として認められていませんが、例外事由に当たる募集は存在します。
ハローワークインターネットサービスの案内によると、募集・採用で年齢制限を設けることは原則禁止(2007年10月1日施行)で、例外事由に当たる場合に限り年齢条件を設けられます。例外の主なものは次のとおりです(出典:ハローワークインターネットサービス「募集・採用時の年齢制限禁止」)。
- 定年年齢を上限として、それより若い人を期間の定めのない契約で募集する場合
- 労働基準法など、法令で年齢制限が定められている場合
- 長期勤続によるキャリア形成のため、若年者等を期間の定めのない契約で募集する場合
- 技能・ノウハウの継承のため、特定職種で人数が少ない年齢層を対象に募集する場合
- 芸術・芸能分野で表現の真実性などが求められる場合
- 60歳以上の高年齢者、就職氷河期世代など、国の施策の対象者に限って募集する場合
また、厚生労働省の案内では、求人票に年齢不問と書いてあっても、年齢を理由に応募を断ったり、書類選考や面接で年齢を基準に採否を判断したりすることは法の規定に反するとされています(出典:厚生労働省「募集・採用における年齢制限禁止について」)。
つまり、求人票を見るときは、例外事由が書かれているかどうかを確認することが、年齢条件の有無と理由を把握する手がかりになります。ただし、これは「募集の建前のルール」の話であり、実際の選考で年齢がどのくらい影響するかを示すものではない点に注意してください。
公的データで見る|転職者の年齢構成と、企業が賃金を決める際の考慮要素
結論として、公的データから分かるのは「転職している人は幅広い年齢にいる」ことと、「企業が賃金を決める際に最も考慮されるのは年齢よりも経験・能力・知識」であることです。
厚生労働省「令和7年転職者実態調査の概況」(調査時点は令和7年10月1日、令和8年9月25日公表、個人調査の有効回答7,310人)の表8には、転職者全体を100としたときの年齢階級別の割合が掲載されています。
| 年齢階級 |
転職者全体に占める割合 |
現在の勤め先が「正社員」の割合 |
| 20~24歳 |
5.5% |
76.6% |
| 25~29歳 |
16.8% |
87.2% |
| 30~34歳 |
13.7% |
82.1% |
| 35~39歳 |
10.7% |
86.6% |
| 40~44歳 |
12.0% |
79.6% |
(出典:厚生労働省「令和7年転職者実態調査の概況」表8。「転職者全体に占める割合」は転職した人のなかの年齢構成であり、各年齢の人が転職できる確率を示すものではありません)
この表から言えるのは、調査対象の転職者のなかに、30代前半・後半、40代前半の人も一定の割合で含まれているということです。一方で、「何歳だと転職できる/できない」という成否を示す数字ではありません。
さらに、同じ調査の事業所調査では、転職者の賃金を決める際に考慮した要素(複数回答)として、「これまでの経験・能力・知識」が59.2%で最も多く、「年齢」は35.3%でした。最も重視した要素でも「これまでの経験・能力・知識」が38.4%で最多でした(出典:同調査の表5・図2)。賃金の決め方の話であり、採否の判断基準そのものではありませんが、経験・能力が重視される傾向がうかがえます。
実業団選手の場合、年齢より「職歴の中身」が論点になる場合がある
結論として、実業団選手の転職では、年齢そのものよりも、競技以外の職歴をどう示すかが論点になる場合があります(編集部の整理であり、統計で確かめた結論ではありません)。
nippon.comの記事(2020年6月3日公開)は、バブル崩壊以降、契約社員の選手や関連会社に籍を置く選手が目立って増えたこと、そうした選手は競技活動に専念しやすい環境に身を置く一方で所属部署での社業は重視されないことを述べています(出典:nippon.com「日本の企業スポーツの歴史と現状」)。これはあくまで一般的な指摘であり、全員に当てはまるわけではありません。
仮に、職場での業務経験が少ないまま年数を重ねた場合、転職の際に職務経歴書へ書く内容が薄くなりやすい可能性があります。これは年齢の問題というより、書類に書ける仕事の中身の問題です。競技経験の書き方は、職務経歴書で部活・体育会経験を強みに変える書き方で整理しています。
公開インタビューから|競技を退いた後の動き出し方
結論として、公開されているインタビューからは、「何歳で動いたか」ではなく「期限を先に決めていたか」「競技以外の仕事を学び直したか」という点が読み取れます。個人が特定されないよう、競技と立場だけで紹介します。
- 期限を先に決めていた例:ある硬式野球部出身者は、社会人野球チームに入る時点で「3年でプロに行くことができなかった場合、引退することを入社時に決めて意思決定しました」と話しています。実際には約2年で現役を退き、その後は人材会社に入社しています(出典:ツナカレメディア OB/OGインタビュー、2026-02-06公開)。
- 未経験の仕事を学び直した例:別の硬式野球部出身者は、競技の道を退いた後に人材ベンチャーの営業職に就きましたが、当初は成果が出ず、上司から「で、結局何ができるの?」と問われたと話しています。その後、競技で習慣にしていたPDCAを営業活動に転用して立て直したそうです(出典:ツナカレメディア OB/OGインタビュー)。
- 専門知識ゼロから営業に入った例:ある大学ボート部出身者は、実業団で選手を続けた後、競技の引退を機に別の会社へ転職しました。専門知識ゼロの状態から営業に従事し、「やったことがないから無理だとは考えず、まずは自分で調べて、知識を一つずつ積み重ねる」姿勢で臨んだと話しています(出典:ツナカレメディア OB/OGインタビュー)。
3例とも、個別の体験談です。これらから「この年齢なら転職できる」と一般化することはできません。ただ、期限の置き方や未経験の仕事への向き合い方は、年齢にかかわらず参考にしやすい点です。
競技を続ける期限の決め方|日付と判断条件で区切る
結論として、競技を続ける期限は、「何歳」ではなく「いつまでに何を判断するか」を日付と条件で決めておくと整理しやすくなります。
実業団の引退や移籍は、年度末に集中する場合があります。Sportiva(2025年4月14日公開)は、陸上の長距離・駅伝を取り上げた記事のなかで、毎年3月末には実業団選手の退部、移籍、引退が発表されると述べています(出典:Sportiva「増える移籍、多様化する契約形態…日本のマラソン&駅伝人気を支える実業団の現在地」)。競技によって事情は異なりますが、年度の区切りで処遇が決まる場合があるため、そこから逆算しておくと動きやすくなります。
期限を決めるときは、次のような条件を書き出してみてください(編集部作成の例です)。
- 契約の更新時期はいつか
- 次のシーズンで達成したい目標は何か(数字や大会など、具体的に)
- その目標に届かなかったときに、競技を続けるのか、仕事に軸足を移すのか
- 退職する場合、会社に伝える時期と引き継ぎにかかる期間
期限が曖昧なまま続けると、気づいたときに選択肢の判断を急ぐことになる場合があります。逆に、期限を先に決めておけば、競技に集中しながらも準備を並行して進めやすくなると考えられます。
競技を続けながらでも進められる準備
結論として、応募や退職の判断はまだ先でも、準備の一部は競技を続けながら進められます。
- 雇用契約と就業規則を読む:雇用の形、退職の申し出の時期、競技をやめた後の処遇を確認します。廃部・休部の場合は実業団が廃部になったら|転職の進め方と最初に確認することが参考になります。
- 契約更新がないときの手順を知っておく:プロ契約の更新なしと言われたら|転職準備の手順と手続きチェックリストで、契約形態ごとの手続きを整理しています。
- 職務経歴書の下書きを作る:競技以外の業務(事務、イベント運営、後輩指導など)を洗い出し、数字や役割で書き出します。
- 動き出す時期を引退月から逆算する:引退直後の転職は何月から動く?で、引退月を起点にした進め方を紹介しています。
準備の段階では、応募するかどうかを決める必要はありません。まずは「いつでも判断できる状態」にしておくことが目的です。
まとめ:年齢の数字より、判断できる状態を作る
実業団選手の転職は、「何歳まで」という一つの線で決まるわけではなく、契約と処遇、競技を続ける期限、競技経験の言語化の3点を確認しながら、自分で判断できる状態を作ることが現実的な進め方です。年齢制限は法令で原則として禁止されており、転職者には幅広い年齢層が含まれていますが、年齢以外の要素が選考にどう影響するかは、募集ごとに異なります。
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