「高卒採用は一人一社制だから、応募が来れば実質的に採用が決まったようなものだ」——高卒採用を初めて担当する企業の採用担当者から、こうした受け止め方を聞くことがあります。しかし一人一社制は、あくまで応募の時点で生徒が他社と比較検討しにくい仕組みであり、内定後の意向変化や入社後の定着までを保証する制度ではありません。この記事では、一人一社制という制度そのものの趣旨、複数応募が解禁される時期などの都道府県による運用差、企業が誤解しやすいポイントを整理します。なお、本記事で示す具体的な期日は令和9年3月(2027年3月)卒業予定者を対象としたものです。期日・運用は年度ごとに公表され直すため、実際の採用活動では必ず対象年度の最新の公表情報を確認してください。
結論:一人一社制は「応募機会の公平性」を目的とした運用上の仕組みであり、都道府県により運用が異なり、内定辞退・定着を保証するものでもない
一人一社制は、高校生の就職活動における学業への影響を抑え、学校斡旋の公平性を確保することを目的に、各都道府県で申し合わせとして運用されている仕組みです。法律で一律に定められた制度ではないため、複数応募が解禁される時期や、そもそも制度を維持しているかどうかは都道府県ごとに異なります。また、一人一社制は応募段階で他社との比較検討を抑える仕組みにすぎず、内定後の辞退や入社後の早期離職まで防ぐものではありません。採用担当者は、この3点を正しく理解したうえで高卒採用に臨む必要があります。
そもそも一人一社制とは何か
一人一社制とは、高校生が学校斡旋(ハローワーク経由の求人票、進路指導部を窓口とした応募)で就職活動を行う際、応募解禁の当初は原則として1人1社にしか応募・推薦を受けられないという運用上の仕組みです。厚生労働省が毎年度公表する採用選考期日等では、企業から学校への求人票提出・学校訪問の開始日、学校から企業への応募書類提出の開始日、企業の選考・内定開始日という全国共通の期日が定められています(出典:厚生労働省「中学校・高等学校卒業予定者の就職・採用活動時期について」)。一方で、その期日の中で生徒が何社に応募できるか(一人一社制を維持するか、何月から複数応募を認めるか)は、この厚生労働省の全国共通ルールとは別に、都道府県ごとの申し合わせで決められています。
一人一社制が設けられている趣旨
一人一社制が運用されている背景には、主に次の2つの趣旨があります。
- 生徒の就職活動の負担軽減:高校生は在学中に学業と就職活動を両立させる必要があり、複数社への応募・選考対応が同時に発生すると、学業への影響が大きくなります。応募を段階的に絞ることで、就職活動に割く時間・労力を抑える狙いがあります
- 学校斡旋の公平性の確保:学校斡旋は、進路指導部が生徒一人ひとりの状況を踏まえて企業を取り次ぐ仕組みです。特定の生徒が多数の企業に同時応募できてしまうと、他の生徒の応募機会が実質的に狭まりかねないため、応募のタイミングを揃えることで、生徒間の公平性を保つ狙いがあります
一人一社制は法律で定められた制度ではなく、各都道府県の学校・経済団体・行政(都道府県労働局・教育委員会等)による申し合わせとして運用されている点も押さえておく必要があります。
都道府県による運用差:複数応募の解禁時期は「都道府県により異なる」
一人一社制の運用は全国一律ではなく、都道府県ごとの申し合わせによって異なります。この点は、企業が高卒採用に取り組むうえで特に誤解しやすいポイントです。
一例として、東京都の場合、令和9年3月(2027年3月)卒業予定者を対象に東京労働局が公表する情報では、応募・推薦の開始が9月5日以降、選考活動の開始が9月16日以降である一方、複数応募(一人2社)が解禁されるのは10月1日以降とされています(出典:東京労働局「新規学校卒業者の採用について」)。この期日は、東京都高等学校就職問題検討会議という都道府県単位の会議体での申し合わせに基づいて決められています。
一方で、複数応募が解禁される時期や、そもそも一人一社制を維持しているかどうかは、都道府県ごとの申し合わせで異なります。自社の採用対象地域における具体的な運用は、対象地域の都道府県労働局・ハローワーク、または応募先の学校に個別に確認することが必要です。「9月中旬から複数応募が解禁される」といった情報を他都道府県にもそのまま当てはめると、実際の運用と食い違うおそれがあります。
企業が誤解しやすい点(1):「他社と比較検討されない」ことの受け止め方
一人一社制のもとでは、応募の時点で生徒が他社と自社を比較検討する機会が限られます。これを「競合がいないから採用しやすい」と受け止める企業もありますが、この受け止め方には注意が必要です。
比較対象が少ないということは、裏を返せば、生徒にとって自社が唯一の情報源になりやすいということでもあります。求人票の記載内容や、学校訪問・職場見学での対応が、生徒がその会社を具体的にイメージできる数少ない機会になります。「比較されないから多少の情報不足があっても選んでもらえる」という考え方ではなく、「比較されない分、限られた接点の質がそのまま生徒の意思決定に直結する」という前提で、求人票の作成や職場見学の対応に臨むことが重要です。
企業が誤解しやすい点(2):内定辞退リスクとの関係
もう一つ誤解されやすいのが、一人一社制と内定辞退・早期離職の関係です。一人一社制は応募段階で他社との併願を抑える仕組みであり、内定後に生徒の意向が変わることや、入社後に早期離職につながることまでを防ぐ制度ではありません。
厚生労働省の調査では、新規高卒就職者の3年以内離職率は37.9%(令和4年3月卒業者、令和7年10月公表)となっています(出典:厚生労働省「新規学卒者の離職状況」)。一人一社制のもとで応募・内定に至った生徒であっても、入社後に働き方や職場環境とのギャップを感じれば、離職という選択肢は残ります。「一人一社制で応募してもらえたから、この生徒は自社に決めている」と捉えるのではなく、内定後のフォローや入社後の受け入れ体制を、応募段階の制度とは別の課題として整えておくことが必要です。
まとめ:一人一社制の趣旨と限界を正しく理解し、都道府県ルールは個別に確認する
一人一社制は、生徒の就職活動の負担軽減と学校斡旋の公平性確保を目的に、都道府県ごとの申し合わせとして運用されている仕組みです。複数応募が解禁される時期や制度の有無は都道府県により異なるため、全国一律の情報をそのまま自社の採用対象地域に当てはめず、都道府県労働局・ハローワーク・学校に個別に確認することが重要です。また、一人一社制は応募段階での比較検討を抑える仕組みにすぎず、内定辞退や早期離職を防ぐものではない点も踏まえたうえで、求人票・職場見学・内定後フォローのそれぞれに丁寧に取り組む必要があります。
高卒採用における一人一社制の運用確認や、自社の採用対象地域における具体的な進め方についてご相談がある場合は、採用のご相談からお気軽にお問い合わせください。採用選考期日全体の解説は高卒採用スケジュール2027卒、内定後フォローを含めた時期別のやることは高卒採用やることリストもあわせてご覧ください。